もう一つのエンジンを回すために
昨年は日本を代表するようなメーカーの品質管理での不祥事が相次ぎました。
本来やっているはずの検査が行われていなかったり、検査基準をクリアしていないのに合格にしたり、無資格者に検査をやらしていたり、ものづくり日本の信頼性を大きく揺るがせる一年でした。
しかし、こうした「やったことにしておこう」というのは、おそらく表に出たのは氷山の一角、日本の企業に限らず人間社会のあらゆる場所でありがちなことではないでしょうか。
もちろん、最終的には顧客である消費者を騙しているわけですから、詐欺的な行為で許されることではありません。問題が発覚したメーカーもリコールや既存取引先との取引停止など社会的制裁を受けることになるし、場合によっては倒産に追い込まれるケースも出てくると思います。
そもそも何故「やったことにしておこう」的な行動がそこかしこに生まれるのか?
僕はコンサルタントのキャリアの最初の頃、中小企業のISO(国際標準化機構)の取得コンサルタントをやっていた時期があります。ISO9000(品質)やISO14000(環境)等マネジメントシステムを会社に導入し、社会的な信用度を高めようとする目的で当時ISOはブームの様相を呈し、特に中小建設業では先を競って導入しました。
しかしその時ISOを取得した会社は数年を経てISO認証を捨ててしまった会社が多かった。そのかかる手間、人手、処理の複雑さに辟易して、まさに「やったことにしておこう」となり認証機関による外部監査日の前日に徹夜をして書類をつくって乗り切る、その繰り返しに疲弊しきるのです。
何故、前日の一夜漬けになるかと言えば、本来日常業務の中で回すはずの業務が回っていないから。
その中でも今もISOを維持できている会社は、自社の業務の流れにISOをムリなく取り込んでシステムを回せている会社だとも言えます。
つまり「やったことにしておく」が発生する根本原因は、新しいシステムに対し現場が手が回らない、或いは新しいシステムがスムーズに現場の日常業務内に取り込めないからに他なりません。
だから現場の担当者が怠けているのではなく、それを正式な日常業務として取り込めない組織や仕組みが「やったことにしておこう」を発生させているのです。
実は多くの中小企業で中々マーケティングが機能しないのも同じ原因なのです。
これまでやっていないシステムをあらたに起動するわけですから、当然それに対応した組織、仕組み、責任者、メンバーを決めて、会社の日常業務として位置付けて新たなエンジンを回す必要があるのに、そこがすっぽり抜けて、セミナーで聴いてきたことや他社の真似で表面だけなぞっても、結局は尻切れトンボで、気付いたらまた元のまま何もやらない会社に戻っている。
新しいことをやるのにそれだけの労力も予算もかかるのは当たり前。
もう一つのエンジンを回す、これまでやっていないことを新たに始めるのはある意味投資です。その投資を凌駕するだけのリターンを求めて始めるわけですから、経営者にはそれなりの覚悟が必要。それなくして結果だけ求めても、何も起きないと思います。
乗山徹
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