経費は裏切らない
多くの会社が年度末決算を迎えようとしています。
決算の作業は確かに手間のかかる作業ではありますが、この一年の自社の成績が如実に示される極めて重要な作業でもあります。
この決算の際に必ず作成して頂きたいのが部門別損益計算書です。
確かに合算した損益計算書は重要ですが、それだけだと黒字、赤字の原因がどこにあるのかが中々見えません。
当社では財務コンサルティングを行う場合に、この部門別損益計算書の作成を必ず行います。過去の損益数字を部門別に整理すると、必ず今の事態を招いた原因がはっきり浮かび上がってくるのです。
売上原価が掛かり過ぎていたり、余計な固定費負担が重かったり、或いはもうビジネスモデルが時代に合っていない売上不振だったり、さらに在庫数字をいじった粉飾決算だったり、本当に色々なことが見えてきます。
数字はウソをつかないと言いますが、まさにありのままの会社の身体データが部門別損益計算書には示されているのです。
逆に言うと、こういったありのままの数値データがないと次年度の戦略も経営計画もまともに立てられないということでもあります。
医者が目の前の患者の健康状態が具体的に分からないのに、治療方針も何も立てられないのと同じこと。
基本的に次年度の予算はこの前年度の部門別損益計画書を元に、費目別に足し引きをして決めていきます。場合によって部門ごとばっさり削除(廃止)するといったことも有り得ます。まさにここが経営者や幹部の最も重要な意思決定の場なのです。
しかしこの決算分析や事業計画、多くの会社が当たり前に取り組んでいるかというと実体はさにあらず。
多くの中小企業ではこの取り組みは習慣づけられていないし、例え作っても金融機関から提出を求められた時点で、会計事務所に相談してつくってもらっているという企業も多い。
つまり、資金繰りで困る状態に追い込まれて初めてつくる。しかも、自分ではなく他者につくってもらっている。
先日も同様の経緯で、とりあえず事業計画を作成し資金調達を終えて一服、といった会社に次年度の事業計画はつくらないのですか?とお聞きしました。
取りあえず当面の資金繰り危機は回避できたとしても、根本的に今後の収益見通しを作り抜本的対策を講じない限り、必ず同じことを繰り返すのは目に見えています。
人間は将来のことに漠然とした不安を抱えて生きています。
特に会社経営をしていれば、経営者の将来に対する不安は常について回る。
その不安の正体は、赤字になるんじゃないか?売上が上がらないんじゃないか?お金がなくなるんじゃないか?といった最終的にお金に関することなのです。
事業計画作りはその不安の原因を明らかにする作業でもあります。
その隠れた不安を数字に落としていくことでもあります。
数値計画づくりの鉄則は悲観論です。
・売上は慎重に、経費は確実にかかるとみなす
のです。
経費というのは、ほぼほぼ正確に予測可能です。
それに対して売上は水物です。もちろん予想よりぐーんと伸びることもある。でも特に新規事業などの場合は苦戦することが殆どです。
ですから数値計画を悲観論でというのは現実論なのです。
もし事業計画をつくらないで不安を抱えたまま事業を進めると、不安がどんどん現実化してきます。
でも、この現実を最初から計画に盛り込んで予測し、更に諸対策を事前に用意していたらどうでしょうか?
結果はまるで違ったものになる。
売上は頻繁に裏切るけど、経費は裏切らない。
人生明るく生きるために、時に悲観論が必要な場面があるのです。
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乗山徹
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