システムがよくても客は増えない
2016/04/30
スキップカード組合の総会で講演をしました。
スキップカードは釧路市の商店街や個店が加盟するポイントカードです。
コンピューターの世界では技術革新が速く、既存のハードやソフトウェアを入れ替えないと使えなくなるというのは、ずっとユーザーを悩ませて来た事。私もコンピューターベンダーに勤務していた頃、IBMのオフコンを売っていてOSを入れ替えないとシステムが使えなくなりますので費用がかかります、と言ったとたんお客さんが怒り出し、「何で機能が変わらないのに金が発生するんだ。もうお宅とは取引しない」と言われ涙をのんだ事があります。
ポイントカードの世界でも同じでメーカーが端末の開発と発売を取りやめたりでシステムを組み直さないと使えなくなるため、今回システムをリニューアルする事になりました。
リニューアルに際して新機能が加わり、エコポイント、福祉ポイント、寄付ポイントなどが設定できるそうです。
釧路市では商店街の衰退と購買の地域からの流失に歯止めがかからず、市の中心に位置する北大通りは完全にシャッター街と化してしまいました。現在も全国規模のメガストアと他地域の大型チェーン店の出店攻勢はとどまることを知らず、更にインターネット通販の普及の影響も年々大きくなり当地の個店、商店街、地元スーパーの経営環境はますます厳しさを増しています。
ポイントカードは本来、購買金額に応じて買い物ポイントを与え顧客の囲い込みを図るのが目的ですが、大型店もポイントカードを積極的に導入しており、購買ポイントだけでは購買の流失の歯止めにはなっても差別化要因には至りません。
現在構築中のシステムの要件として寄付ポイント等購買ポイント以外の新たな機能が付加され、これらがUSPとなってカード加盟店から買う強いインセンティブになるものと思われます。消費者としてはポイントカードを使う目的が「社会的に貢献できる」「地域にとって良いことである」と明確であれば、あえてスキップカードを使うという行動になります。
※USP(Unique Selling Proposition)とは:自社(自製品)のみが持つ独特の強みのこと。ユニークで顧客に対して売り込みが効く主張、提案がUSPであり、他社との差別化が主張できる強みのこと。独自性。
さあ、皆さん考えてみてください。
新しいシステムは素晴らしい機能を持っている。導入しただけで加入者が増えたり、購買が増すのでしょうか?
私は何も変わらないと思います。
・・・・・但し、これは導入してこれまでと同じ運用を続けていた場合のことです。新しいシステムを導入したからと言って、それだけで新規購入が増えるなどという事はありえないでしょう。
システム導入をきっかけに、まちづくりの視点で大きな仕掛けと行動が必要だと思います。USP(独自性)は、我々地域で商売をするものは、地域から逃げられないという事です。
他地域からの大型店は競争志向であり、ダメなら別の地域に移っていく、地域に空き店舗だけ残され、既存個店や商店街との共存という志向は元々持ち合わせていません。
地域の既存店は、自分の生まれた場所であり、帰る場所であり、地域を思う心を持っています。だからと言って、お客さんは個店や商店街からあえて買ってくれるわけではありません。安くてワンストップで揃い、人の賑わいもある大型店から買うのです。
商店街は集積としての機能を失い、俺たちの集積から買ってくれと顧客層に提供できなかったし、伝わるだけの声もあげてきませんでした。そして今日のシャッター街があります。
最大の目標であるスキップカードによる地域顧客の囲い込みを進めるためには、新機能をいかにUSPにつなげるかにかかっています。
そのためのポイントを3つ挙げます。
1. ターゲットを絞る
囲い込みのターゲットをあれもこれもと広げない。
地域の購買者は放っておくと、インターネットで購買したり、他地域からのメガストアと大型店に流れます。
それを防ぐには、加盟店から買うインセンティブとして、地域の消費者が「共感できる何か」「応援できる何か」を提案する事です。
今回の新機能で最も分かりやすく共感を得やすいのは寄付ポイントではないかと思います。その対象として、子供、教育、動物保護、環境保護、障害者、老人等弱い者への支援、助け合い等への寄付。自分の購買で得たポイントがそれらへの支援、寄付に回せるといったシナリオを提示するのです。
特に最初は、ポイントカードの新機能がたくさんあるからと言って、あれもできます、これもできますとやらない事。それをやると顧客には何も伝わらなくなってしまいます。ここはターゲットを絞る。
つまり、地域の子供や動物、弱者を支援することに共感する消費者を対象とする。絞ることで逆に共感する即ちスキップカードの利用者が増える。という事です。
2.USP(Unique Selling Proposition)強みは何かを伝える。
域内循環により地域を再生するのが実現したい大きな流れです。そのための強みとしてカードを使うことで寄付ポイントが使える。対象は身近で大切にしたいもの、人とのコミュニケーションだったり、例えば対象を絞って動物園への寄付、もっと絞って動物もシマフクロウや白クマのツヨシだったりと絞る。「分かりやすさ」「具体的に見える」ほうが良いです。それと目標値(寄付額)と実績の達成度が常に見えるように、つまりアナウンス、メディアを使って伝えることが必要です。
とにかくいかに伝えるか。それでプロジェクトの成否が決まります。
もう仕組みは作った。それで終わり。だからこれまであらゆる事が機能しない。
加盟店が地域を育てていくという大きな使命を担っている。自分たち子供、孫、ひ孫が将来元気に暮らす地域社会をつくっていく大きな使命を持っている。そのために社会を形作る活動を進めている、つまり地域から逃げれないから、この活動をしていると訴えることができるのが実は絶対的な強み。これを明確に伝える。大型店がこれを言ったら偽善になる。何故ならこれまで無責任に逃げだしてきた歴史があるから。
3.顧客に行動を促す。
スキップカードは生まれ変わった。カードを使うことで地域で良いことがどんどん起きます。ということをメディアを使って徹底的に伝えます。
目的がこんな良いものです。だから加盟しませんか。登録して下さい。加盟店で買い物をして下さい。と明確の伝えるのです。
プロジェクト成功のためには若者や外部を交えた組織を作り、面白く、楽しく、進めていく事が必要です。
富士宮やきそば学会などが良い参考事例です。良さを楽しくいかに伝えるかで成否が決まります。
乗山徹
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